君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 むしろ私は図書委員で、図書室にいることが多い。

 周りに利用者がいる状況でノートに書き込みをしていたことだってあるし、琴子とノートの話を何度もしていた。

 そっか……。

 向こうは私だって知っているかもしれないんだ。

 ――だけど。


「でもどっちにしろさ、『ごめん』なんだから彼が私に会ってくれないのは変わらないよね」

「それはそうだけど……。でも栞にとっては意外な人物で、彼は今さら打ち明けづらいとか、事情があるのかも。だから私には会いたくないんだとか、こんなことを書いて嫌われちゃったんだとか、そう考えなくてもいいとは思うよ」

「琴子……。ありがとう」


 きっと私がとてもがっくりとしていたから、琴子は励ますようなことを言ってくれるんだろう。

 ――でも、確かにそうだよね。

 今までずっと、やり取りしてきたんだもん。

 嫌われてはいない……よね。

 私は琴子がカウンターを離れたすきに、ノートにこう返事をした。


『変なこと言ってごめんね(笑)。今日も好きな人と仲良くはできたけれど、恋愛っぽくはならなかった~』


 軽い感じの文体にして、前回のことは流したつもりだった。

 私はやっぱり会いたいけれど、彼が会いたくないというならそれでいい。

 だけどこのノートのやり取りがなくなってしまうのだけは嫌だった。

 ――前と同じようにやり取りができますように。

 そう祈った私だったけれど……。

 それからしばらくの間、彼から返事は来なかった。

 ここ最近は、遅くても三日以内には返事が来ていたのに、一週間経っても来なかったのだった。
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