君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように

 しばらくぼんやりとしてたら、貸出カウンターの隅に一冊のノートがあるのを見つけた。

 図書館ノートというそれは、本の感想を書き込んだり、司書の先生や図書委員におすすめの本を尋ねたりできる、本に関することならなんでも書いていいノートだった。

 だけど書き込みはとても少なかった。

 高校生になって図書室に訪れるやつなんて、あまりいないのだろう。

 たぶん、ほとんど誰にも見られていないノート。

 ――だから俺は、書こうと思った。

 誰も知らない俺のことを、ここになら書いていいような気がした。


『落ち込んだ時に読む本を教えて欲しい』


 本に関わることを書かなきゃいけないと思ったから、とりあえずそう書いた。

 このどうしようもない絶望感を、誰かになんとかしてほしいという気持ちもあった。

 すると次の日にノートを見てみたら、とても丁寧な文字でこう返事が来ていた。


『それなら、まさに『落ち込んだ時に読む本』っていう短編集があるのでおすすめです。あの、大丈夫ですか?』


 驚いた。

 まさか昨日の今日で答えが返ってくるなんて。

 ――しかも。

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