君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 優しい栞のことだ。

 一生俺の運命を悲しんでしまうだろう。

 やっぱりそれは嫌だった。

 栞の中にいる俺は、この先も明るい俺でいて欲しいから。

 俺がこの世から消えてしまった後も。

 ノートのやり取り上では、栞に病気のことをつい打ち明けてしまった。

 あの時は病院で余命についてはっきりと言われたばっかりだったから、つい誰かに……いや、優しい栞に縋りたくなってしまったのだ。

 だけど栞はあれが俺とは知らない。

 そしてこのまま、知らせるつもりもない。

 そのうちノートへの返信も俺はできなくなる。

 栞は寂しがるかもしれないけれど、顔も名前も知らない相手のことなんて、きっとそのうち忘れてくれるだろう。

 そして、ノートの書き込みによると、栞には好きなやつがいるらしい。

 それを知った時は、もちろん嫉妬心が芽生えたが、安心感の方が大きかった。

 俺なんていなくても、栞にはそういう相手がいる。

 安心して俺は、この恋を諦められる。

 ――たぶん、それって悟のことだろう。

 中学生の時に好きで、ラブレターを書いたと言っていたから。

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