君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 昔ふたりの間にあったことを聞いた時は、悟に対して怒り狂ったけれど、悟は本当に反省をしているようだった。

 そうだ、こいつは基本的にいい奴なのだ。

 幼い時から一緒の俺は知っている。

 ラブレターを書いた栞に「気持ち悪い」と言ってしまったのだって、ずっとずっと後悔していたのだろう。

 悟は俺が病気だって知っても、「ふーん」と言うだけで、いつも通りに接してくれた。

 他の親族からは腫れ物を扱うかのような態度を取られていたので、悟のそんな態度は俺にとって救いだった。

 そんな悟だから、俺は安心して栞を任せられる。

 俺のような、あと少しで確実にいなくなる奴なんかより、栞には悟と一緒にいてほしい。


「だから頼むよ、栞のこと」


 俺は努めて軽い口調で言った。

 へらっと笑ったつもりだったけれど、力のない笑みになってしまった気がする。

 悟は本当に困ったような顔をした。


「なんだよ頼むって……」

「悟、栞のこと好きだったんだろ。今だっていいなって思ってんだろ」

「……そういう問題じゃないし」


< 168 / 216 >

この作品をシェア

pagetop