君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 否定しないところを見ると、悟にはまだ栞を好きな気持ちがあるようだ。


「そうすれば俺は安心して学校を去れるよ」

「そういうのやめろってば。だいたい、人任せにすんなよ。樹だって栞ちゃんのこと、好きなくせに」


 ああ、そうだよ。

 好きだよ。

 好きで好きでたまらないよ。

 だけど俺はもう、人任せにするしかないんだよ。


「……俺の気持ちなんて無意味だよ。だってどうにもならないじゃんか」


 さすがに悟は黙ってしまった。

 自分でも、こんなことを言うのは卑怯だとは思う。

 だけどお願いだよ、悟。

 お前が栞についていてくれれば、俺は安心なんだよ。

 学校には、病気のことはちゃんと話しているけれど、クラスのみんなには絶対に伏せるようにお願いしてある。

 俺が入院する時、みんなには突然転校してしまったと説明するようになっている。

 だが栞には、もうすぐ転校するとだけ話そうと思っていた。

 いつ倒れて学校に行けなくなるか、もう分からない状態だ。

 ちょうど今日、一緒に帰る約束をしていたから、今日そのことを話そうと思っていた。

 栞にとっては、仲良くなった男友達がひとりいなくなるだけ。

 最初は少し寂しいと思ってくれるかもしれない。

 だけどそんなの悟が傍にいれば、すぐになくなるだろう。

 そうだ、栞。

 俺のことなんて忘れるんだ。

 忘れてしまえ。

 そのうちこの世からいなくなる俺のことなんか。
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