君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように

樹くんの真実




 ――なんだか、今日の樹くんは普段と違う気がする。


「それで悟がさ怒ってさー。めっちゃ笑えない?」

「あはは、そうだね」


 いつものように、他愛のない話をしながら並んで歩いて下校する私たち。

 樹くんの話に合わせて、私も相槌を打ったり笑ったりしていたけれど。

 やっぱり彼がいつもと様子が違うように思えたので、気になってしまった。

 一見彼はいつも通りだ。

 いつものように、優しく微笑んで、私の歩調に合わせて歩いて、楽しそうに話してくれている。

 ――だけど。

 なんだかたまに、心ここにあらずという印象を受ける時があった。

 一瞬だけ、ぼんやりとした瞳で虚空を眺める瞬間があった。

 そして何度か「あのさ、栞」と真剣な口調で何かを話しだそうとしてくるから、私が身構えると、一瞬黙ってからクラスのこととか本のこととか、いつも通りの話題を出してくる。

 ――何か他のことを言おうとして、やめたみたいだ。

 というか、今の私もまさにそうだった。

< 173 / 216 >

この作品をシェア

pagetop