君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
悟くんは首を横に振りながらこう言った。
「いや、そのせいではないから安心して。でも栞ちゃん、樹のこと振ったんじゃ……」
「えっ?」
悟くんから思ってもみないことを言われて、私は驚きの声を漏らす。
「樹が今日、そんなこと言ってたんだけど……。『俺、栞にふられた』って」
「え!? そんなことあるわけない! だって私、樹くんのこと……!」
なんでそんな話になっているのか、まったく意味が分からない。
私が樹くんを振るなんて、あり得ないのに。
もしかしたら、図書館ノートに「好きな人ができました」って書いたから、それを別の人だと思ったとか?
可能性があるとしたらそれだけど……。
でもそれは樹くんのことだし、私ははっきりと樹くんをふってはいない。
すると悟くんは、しばらくの間考え込むような顔をした。
――そして。
「なんだよ樹……。嘘つきやがって。大事な子のこと、人任せにするんじゃねぇよ」
少し怒ったようにそう呟いた。
倒れている樹くんのことを、悲しそうに見つめながら。
もう、何がなんだかわからなかった。
樹くんが悟くんに言っていたことも、悟くんの今の発言の意味も。
ただ、悟くんは樹くんが倒れていたことをそんなに驚いている様子はなかった。
親族だから、私が知らない樹くんの事情を知っているのかもしれない。
そんなことを考えていると、救急車が目の前に停車し、樹くんはストレッチャーに載せられて車内に運ばれていった。
そして近くの総合病院に運ばれることになった樹くんに私と悟くんは付き添うことになり、一緒に救急車に乗車したのだった。