君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 悟くんは何も答えずに、唇を噛みしめた。

 きっと彼も、それに答えるのが嫌だったんだろう。

 ――出会ったばかりなのに。

 好きだって伝えたのに。

 こんなことって、ないよ……!

 私ももう言葉が見つからず、俯いてしまう。

 衝撃的過ぎていまだに気持ちが追い付かず、涙すら出てこない。

 ――どうしたらいいの?

 どうすれば私は樹くんを助けられるの?


「……今日樹がさ。『栞のことよろしく頼む』って俺に言ってきたんだ。自分は栞ちゃんにふられたからって」

「え?」


 よろしく頼むって、どういうこと?

 私は顔上げて悟くんの方を見た。悟くんはどこか物悲しそうに微笑んでいた。


「あいつ、自分がもうすぐいなくなるからって、俺に栞ちゃんのこと託してきたんだよ。栞ちゃんのこと好きだからこそ、いなくなっちゃう自分のことなんて忘れてほしいって思ってたみたいでさ。だけどこっちはふざけんなって感じだよ。まったく冗談じゃないっての。お互い好き同士のくせにさ。俺を都合よく使うなっての」


 冗談っぽく悟くんは言う。

 私は彼の言葉に驚いていた。 


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