君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 樹くんはそこまでしか書かなかった。

 いや、書けなかったんだ。

 彼は涙を流して肩を震わせていた。

 ペンを握るのが難しくなっていた。

 私は立ち上がって、そんな彼の背中をさする。

 すると樹くんは、絞り出すような声でノートに書くはずだった言葉の続きを話し出した。


「……もうそれでいいやって思ってた。何年か前に病気が分かって、その時にもう若いうちに死ぬって聞かされてたから、受け入れていたつもりだった。好きな子……栞とも死ぬ間際にちょっと仲良くなれたし、もういいやって」

「うん……」


 樹くんの言葉を聞いて、私のことを「好きな子」って言ってくれたことの嬉しさや、死ぬことを受け入れて欲しくないっていう気持ちもあったけれど。

 今は彼が一生懸命自分の弱い気持ちを吐き出している。

 だからただ、じっくり聞こうと思った。


「だけどさあ。栞が俺のこと好きって言うんだもん。そんなまさかって思ったよね」


 涙を流しながらも、樹くんは微笑んだ。

 そんな彼の切ない表情を見た途端に、堪えていた私の涙も零れ落ちてしまった。


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