君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
「もういいや、死のうって思ってたのに。……それなのに、世界一好きな人が俺のことを好きって言ってくれちゃったから。俺、死にたくないって思っちゃったじゃん。もっともっと生きて……長生きして、栞とずっと一緒にいたいって、思っちゃったじゃん」

「樹くん……」

「ねえ、栞。俺はどうしたらいい? 俺は死にたくない。そして栞のことを忘れたくもない。俺は、まだまだ栞と一緒に居たくなっちゃったんだよ……」


 樹くんはきっと、手術の結果自分が記憶をなくして、私に辛い思いをさせるんじゃないかって思っているのかもしれない。

 でも樹くん。

 そんなこと、考える必要なんてないんだよ。

 私は樹くんのことをぎゅっと抱きしめた。

 引っ込み思案で恋愛下手な私だけど、迷わずにそうすることができた。

 少しでも樹くんを近くに感じたかったし、こうすれば私の想いも伝わりやすいんじゃないかって思えたから。


「樹くん。手術、受けよう」


 私は静かに言った。

 すると抱きしめた先からは、動揺の色を感じ取れた。


「でも、失敗したら……」

「大丈夫」


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