君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 迷っている彼を導くような気持ちで、私は断言した。

 そして、こう続ける。


「私は樹くんが好き。樹くんが樹くんである限り、私は樹くんに恋をする。私はずっと、そばにいる。例えあなたが私を忘れてしまっても、もう一度出会いからやり直して、そして恋をする」


 心からの気持ちだった。

 甘いって大人には言われるかもしれない。

 現実を見ていない、子供同士の恋人ごっこだって、笑われるかもしれない。

 だけど暗いところに閉じこもっていた私を光のある場所に連れ出してくれて、人に恋をするということを思い出させてくれたのが、樹くんなのだから。

 私はあなたが生きている限り、そばにいたい。

 記憶喪失の彼なんか大変だよ、と言われてしまうかもしれない。

 だけど私がそうしたいんだ。

 だから何も大変なんかじゃないんだよ。


「栞……」


 樹くんは涙声で私の名を呼んだ。

 それ以上、言葉は出てこないようだった。

 私を濡れた瞳のまま、じっと見つめている。

 その真っすぐな瞳は、私の言葉を受け入れてくれたように見えた。

 私も泣きながら、彼の眼前で微笑んでみせた。

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