君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 ――すると。

 樹くんが私の頬にそっと指を触れた。

 いつも冷たかった彼の手。

 指先もとても冷たい。

 今の私には、その冷たさの理由が分かった。

 私がこれからは温める。

 あなたの手も、心も。

 私は彼の指を包み込むように、自分の手のひらを上から当てた。

 私たちはどちらからというわけもなく、瞳を閉じた。

 そしてまたどちらからかわからない感じで、唇を重ねた。

 生まれて初めての大好きな人とのキス。

 もちろん心から嬉しい気持ちだった。

 でも、それだけじゃない。

 どんな樹くんでも私は好き。

 ずっとずっと彼の傍にいる。

 それは私の、決意のキスでもあった。

 ――そして樹くんは、近日中に手術を受けることを決断したのだった。
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