君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 今、保健室のベッドで眠りこけてしまったことにすら、罪悪感を覚えてしまっている。

 ――断ろう。

 すぐにそう決めた。


「あ……。私は」

「ね、どっか行こうよ」


 樹くんは、おどおどする私をまっすぐと見つめてきた。

 静かに、一直線に。

 彼の切れ長の大きな目が、真正面に私を射貫く。

 茶色がかったきれいな瞳は、吸い込まれそうに思えてしまうほど静かに光っていた。

 こんな風に男の子に見つめられたことがない私は、頭の中が空っぽになってしまった。

 立ち尽くして、彼を見返すことしかできない。

 ――すると。


「あら、ふたりもいたの。ごめんね、ちょっと別な仕事で席を外していて」


 保健室の扉が開いて、養護教諭の先生が入ってきた。

 私はハッとしてようやく樹くんから目を逸らし、先生の方を見た。


「す、すみません……。私、勝手にベッドを使っちゃって」

「あら、いいのよ。いなくて申し訳なかったわね。具合、大丈夫?」

「あ、もう大丈――」

「先生。俺たちふたりともまだ気分が悪いです」


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