君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 いつもそんな樹くんの周りには人が集まっている。

 今だって、一声出しただけですでに十人近くが彼の周りに寄ってきた。

 私にも、何回か話しかけてくれたことがある。

 先生が呼んでたよとか、肩にゴミついてるから取っといたわ~とか、些細な用事だったけどね。

 髪の毛の色のせいか、チャラそうな印象がある。

 私とは対照的過ぎて、ちょっと樹くんには苦手意識があった。

 彼のことは何も知らないけれど。

 まあ別に、深く関わることは無いだろうけどね。

 彼とは住む世界が違うのだから。

 だけどその後、午後の授業が終わって掃除当番に当たった私が、ひとりで教室の床をほうきで掃いていたときのことだった。


「栞ー。なんでひとりでやってるん?」

「え……」


 急に樹くんに話しかけられて、びっくりした。

 すでにクラスメイトのほとんどは帰っちゃっていて、教室内には私と樹くんを含めて五人くらいしかいなかった。

 樹くんなら、友達と真っ先に帰りそうなのに、なんでまだ残っているんだろう。

 そしてあんまり話したこともないのに、いきなり名前を呼び捨てにされて、私は戸惑っていた。

< 3 / 216 >

この作品をシェア

pagetop