君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように

私なんか




 樹くんに連れて来られたのは、学校の最寄り駅近くのショッピングモールだった。

 ちなみに通学鞄は、保健室を出てすぐに教室にふたりで取りに行った。

 六時間目は美術の授業だったから、クラスメイトのみんなは美術室に行っていたため、助かった。

 道中、樹くんはあまり喋らなかったけれど、なぜかとても機嫌が良さそうに微笑んでいた。

 まるで鼻歌でも歌い出しそうなくらいに。

 だからなのか、会話がそんなになくても居心地が悪くなかった。

 保健室を出たばかりの頃に感じていた彼に対する緊張も、次第に溶けていった。

 また、保健室を出た直後は私の手を取って歩き出した樹くんだったけれど、鞄を取る時に離してからは繋いでいない。

 ……ま、まあそれは良かった気がする。

< 30 / 216 >

この作品をシェア

pagetop