君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 嬉しくなって私はその本を一冊手に取った。

 ――すると。


「その本、読みたいの?」

「うん。この作家さんが好きなんだ」


 新刊の内容が気になっていた私は、樹くんの問いかけに素直にそう答えた。

 ……答えられた。

 自然に。

 緊張せずに。

 私が何が好きだっていう話を、家族や琴子意外に話したのはいつぶりなんだろう。

 自分のことなんて、いつもなら怖くて話せないのに。

 大好きなものが目の前にあったのと、樹くんに対する緊張が薄れていたからできたのかもしれない。

 樹くんは、私が持っている本と同じものを一冊手に取り、パラパラとページをめくりながらこう言った。


「へー、そうなんだ。どんな話なの?」

「あ……。いつも青春小説を書いている人で。今回もそんな感じみたい」

「青春小説かあ。栞が読んだ中で、おすすめってある?」

「それなら、去年出たタイムリープのお話が私は好きだよ。たぶん奥の棚にあると思う」

「へえ、どれか教えてよ」

「うん」


 私は既刊が棚刺しされている出版社ごとの棚に樹くんと共に向かって、一冊の本を指さした。


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