君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
「これだよ、私が気に入っているお話」

「へー。確かに面白そうなあらすじ」

「うん、どうなるんだろうってずっとハラハラしながら読めた! 終わり方もとてもよくって……。あ、あんまり言うとネタバレになっちゃうね」


 思わず苦笑を浮かべる私。

 すると樹くんは、そんな私を目を細めて眺めた。

 とても優しい表情に見えて、なんだかとてもドキドキした。


「ど、どうしたの……?」

「いや。栞結構喋るんじゃん、って思って」

「あ……」


 言われてはっとする。

 いつの間にか、樹くんとごく自然に会話ができていたことに初めて気づいた。


「クラスではよくひとりでいるし、あまりしゃべっているとこも見たことないから。無口キャラなんかなって思ってたんだけど」

「…………」


 実際にいつもは無口だ。

 なりたくてそうなっているわけではないけれど、昔のことがあってどうしても上手に話せないから。

 でも本当にどうして、樹くんとは今普通に話せていたんだろう。

 大好きな本屋さんだから? 

 樹くんが私の本の話を、うんうんと頷きながら聞いてくれたから?

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