君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 確かなことは分からないけれど、指摘された今も緊張はしていない。


「私、人見知りで……。慣れるまで時間かかるの」


 嘘はついていない。

 だけどなんでそうなったのかを言うのはもちろんできなくて、私は簡単にそう言った。


「ふーん、そっか。それじゃ、俺にはちょっとは慣れたってことでいい?」


 ちょっと得意げに樹くんは笑う。


「……うん、そうかも」


 思わずそう答えた私。

 だけど、慣れるほど多くの時間を樹くんと接しているわけじゃない。

 本当にどうしてなのか、自分でもわからない。

 ――今日初めてこんなに話したのに。

 なんでなのか、そんな気がしないなあ。

 今までに関わったこと、あったっけ?

 私がそんなことを考えていると。


「よし。じゃあ栞が勧めてくれたこの本、読むことにした」

「えっ、買うの?」

「だって、栞が面白いって言ってるから。楽しみだな~」


 嬉しそうに樹くんは言う。

 まさか購入するとは思っていなくて、私は驚いていた。

 私が持っていたら貸すことができるけれど、その本は図書館で借りて読んだからそれはできなかった。

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