君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 でも、まさか買ってくれるなんて。

 樹くん、意外と小説を読むのかな。

 そして私はさっきふたりで見ていた新刊を、樹くんは私が勧めた本をレジで購入した。

 書店員さんに紙のカバーをかけてもらった本を鞄の中にしまうと、樹くんは機嫌良さそうに微笑みながらこう言った。


「よし。じゃあ次は俺の行きたいとこね」

「う、うん」


 樹くんの行きたいところ……。

 どこなんだろう?

 ゲームセンターとか?

 なんとなく彼のイメージで想像した私。

 樹くんは具体的にどことは言わずに、歩き出した。

 ――私の手を取って。

 保健室から出たばかりの時のように。

 二回目だからか、最初よりは戸惑いは少なかった。

 もちろんそれでもとてもドキドキはしたけれど。

 でもあまりに自然に手を繋いでくるから、彼にとってはきっと特別なことじゃないんだろう。

 たぶん、普段から他の人にもこんな感じなんだろうなあ。

 相変わらず、樹くんの手のひらはちょっと冷たかった。

 男の人ってなんとなく体温が高いイメージがあるけれど、彼はそうじゃないらしい。

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