君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 まあ樹くんは、誰とでも仲良くなれちゃういわゆる陽キャってやつだから、そんなことを気にする意味はないんだろうけど。


「あ……。もうひとりの教室の当番の子が、休みで」


 掠れた声で私は言う。

 今日、教室に入ってから一言も言葉を発していなかったから、うまく声が出なかった。

 そう、教室の掃き掃除係は今日はもうひとりいたんだけど、たまたまその子が休みだった。

 別に押し付けられてひとりでやってるわけじゃない。


「ふーん、そういうことか。大変じゃね? 俺もやるわ」

「えっ」


 ――なんで?

  樹くんがなんで私の手伝いなんてしてくれるの?

 そんな疑問が胸中を渦巻く。

 なんでクラスの人気者のあなたが、存在感がゼロに等しい私を気遣ってくれるのって。


「あ、えっと、だい、じょうぶ、です……」
 

 混乱してうまく言葉が出てこない。

 私は途切れ途切れに、やっとそれだけ言った。

 ――だけど。


「いやどーせ俺暇なんで。軽い運動にちょーどいいわ」


 なんて、のほほんとした口調で樹くんは言うと、掃除用具入れからほうきを取り出して掃き掃除を始めてしまった。

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