君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
「うん、いいよ。私なんかでよければ」

 
 私は頷く。

 私と一緒にいたことを楽しいと思ってくれたことが、素直に嬉しかった。

 人見知りしまくりの私と楽しく過ごしてくれる人なんて、滅多にいないと思ったから。

 ――それに。

 私だってとても楽しかった。

 琴子や家族以外の人と、こんなに心が弾む時間を過ごせたのは、久しぶりだった。

 中学生の時のあの出来事以来、今までなかったと思う。

 すると樹くんは、私の言葉になぜか眉をひそめた。


「あのさー、栞。その『私なんか』って言うの禁止ね」

「えっ……?」


 樹くんの言っている意味が分からず、私は首を傾げる。


「だって俺は栞と行きたいから誘ってんの。そういう言い方、栞のこと大切に思ってる家族とか友達に失礼じゃね。俺にだってさ」

「あ……」


 確かにその通りだなって思った。

 あの出来事の後から私はこんな自分なんて、ってどうしても思いがちだ。

 だけど、琴子や家族は私と一緒に居てくれてる。

 きっと私のことを大切に思ってくれている。

 ――なんか、樹くんの考えっていいな。

< 42 / 216 >

この作品をシェア

pagetop