君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 だけどやっぱり、昨日までほとんど話したことのない樹くんが「私がいい」と言ってくれることには、疑問だった。

 陽キャはきっと私とは違う思考回路をしてるんだろうな……。


「じゃ、またねー栞」

「うん、また」


 樹くんは手を振りながら早足で歩いて行った。

 しばらく私の方を見ながら歩いていたので、私も彼に手を振り返した。

 表情が見えなくなったくらいに離れたところで、やっと樹くんが前を向いたので、私も彼に背を向けて家路についた。

 歩きながら、ふとさっきの樹くんの言葉が頭に思い浮かんだ。


『いい気晴らしになったっす』


 今になって、その言い方が妙に気になった。

 気晴らし……?

 最近、私もその単語をどこかで使った気がする。

 どこでだっけ。

 誰に言ったんだっけ?

 しばらく考えてみたけれど、思い出せない。

 だから私は「ま。いっか」と思い出すのを諦めた。

 そして今日樹くんと食べたケーキの味や、買った新刊のことを思い浮かべて、いつもより軽い足取りで帰宅したのだった。
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