君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 拾ったバスケットボールを渡した私は、悟くんに背を向けてそそくさと離れようとした。

 ――だけど。


「あ、あの! 栞……ちゃん!」


 ――え?

 背後から呼び止められて、思わず私は立ち止まる。

 悟くんは昔の呼び方で、私を呼んだ。

 恐る恐るといった感じの声だった。


「え……」


 私はおっかなびっくり振り返る。

 何を言われるんだろうと緊張した。

 悟くんは困っているような焦っているような、複雑な表情をしていた。


「あのさ……俺……」

「……?」

「俺、あの……ずっと……」


 要領を得ない言葉。

 何か言いづらいことなのかな。

 「ずっと……」なんだろう。

 ――そう思っていると。


「好本さーん! コート入る番だよー!」


 同じクラスの女子から呼ばれて、ハッとする私。

 その子はコートの中に居て、私を手招きしていた。

 バレーボールに参加する順番が回ってきたらしかった。


「あ……ごめんなさい、行かなきゃ」


 悟くんにそう告げて、小走りでコートの中へと向かう私。

 「……うん」という悟くんの小さな声が聞こえた。

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