君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 そこまでされて断るのもおかしいし、そもそも人に強く意見を主張できない私は、もう何も言わずに掃除の続きを始めた。

 樹くん、なんで掃除なんてやってくれるんだろう。

 そういえば、前にも彼は私を助けてくれたことがあった。

 理科室で班ごとに実験を行った時、背の低い私は棚の上にある物が届かなかった。

 その時樹くんは、別な班なのにも関わらず近づいてきて物を取ってくれた。

 あと、先生に頼まれて宿題のノートの回収をしている時。

 未提出のクラスメイトに、なかなか声をかけられずにいたら、代わりに樹くんが声をかけてくれた。

 チャラそうな見た目のせいでどうしても苦手意識があるけれど、きっと優しい人なんだと思う。

 私みたいな隅っこ族のことも、気に留めてくれるんだから。


「ほら、もう終わったし。ふたりでやりゃーすぐじゃん」


 集めたゴミを塵取りでまとめ、ゴミ箱に捨てた後。

 樹くんは爽やかに微笑んで言う。

 かっこいい人だなあと素直に思った。

 外見も、内面も。

 きっと女の子にモテモテなんだろうな。


「……うん。ありがとう……」


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