君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 相変わらず、教室内では、樹くんの周りには常に人が集まっていた。

 私は恐れ多くて近寄れなかったけれど、彼は私と目が合うと屈託なく笑いかけてくれた。

 私がひとりで過ごしている時や、通りすがりに声をかけてくれることも何回かあった。

 ――たったそれだけの、些細なこと。

 だけど常に教室では孤独に過ごしていた私の心は、それだけで温かくさせられたんだ。

 そんな風に、今までとはちょっと違う風に過ごせた日の放課後。

 図書委員の当番があったので、私は図書室へと向かった。

 ――すると。


「なんか今日の栞、いつもより明るい気がするんだけど。何かいいことでもあった~?」


 カウンター内で返却された本を一緒に整理していた琴子に、そんなことを聞かれた。


「あ……。その」


 なんて答えたらいいかわからず、私は口ごもる。

 すると琴子は何かを疑うような面持で私を眺めてきた。


「ん!? なんか怪しいな!? そういえばこの前珍しく早退してたみたいだけど……。あれはなんで!?」

「う……」


 鋭い琴子に隠し事はできないなあと、私はため息をつく。

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