君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 帰りの挨拶をしてから、まだ一分も経っていないのに。

 周りにはまだたくさん、クラスメイト達が残っていた。


「は、早いね樹くん。ごめん、ちょっとまだ帰りの準備が……」

「あー、いーよ焦らなくて。ゆっくりで」


 焦る私に向かって、にこりと優しく微笑んで樹くんが言う。

 「うん、ありがとう」と私は言って、鞄に教科書やノートを詰め込む。

 ――すると。


「あれ、樹と好本さん? 珍しくない!?」


 驚きの声が、私たちふたりに向けられた。

 私はびくりとして、手を止めてしまう。


「ふたりでどっか行くの!?」


 問い詰めるような口調でそう言いながら、クラスメイトの女子――瀬尾由香さんが寄ってきた。 

 彼女はクラスの中でも目立つタイプ。

 髪の毛の色は金に近い茶色で、メイクもばっちり目。

 マスカラが乗せられたまつ毛がとてもきれいだ。

 瀬尾さんは、私にとっては恐れ多い存在だ。

 あまり話したことがない。

 瀬尾さんも私みたいなタイプに構うはずもなく、今までほとんど関わり合いがなかった。

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