君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 この前遊んだとき、楽しかったからって。

 固まって何も言えなくなってしまった私の代わりに。

 たったそれしきのことで、なんだか樹くんに守られたような気分になってしまった。

 ――どうしよう。

 すごく嬉しい。

 しかも、私とこれから出かけることを、デ、デートだって……。

 私にとってデートって、お互い気になっている男女同士のお出かけだっていう認識だ。

 ――樹くんは、どういう意味でデートって言ったんだろう。


「栞。そろそろ準備終わった?」


 今までずっと黙っていた私のことなんて、まるでなかったかのようにさらりと樹くんは尋ねてきた。

 そんなさりげなさすら、彼の優しさに思えてしまう。

 私は慌てて、鞄に入れかけだった教科書とノートを詰め込む。


「う、うん。終わったよ」

「そっか、じゃ行こう!」


 促されて、私は立ち上がる。

 樹くんはすたすたと教室の扉に向かって歩き出した。

 そんな彼に向かって、通りすがったクラスメイトたちはみんな「樹くん、またねー」「ばいばーい」なんて声をかける。

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