君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 誰にも声をかけられない私は、樹くんの背中に隠れるように歩いた。

 やっぱり、樹くんと私とでは何もかもが違い過ぎるような気もした。

 さっき彼が私と一緒に出かけることを楽しそうに話してくれたばっかりなのに、またもやそう思ってしまう、後ろ向きな私。

 ――だけど。


「とりあえず、駅の方行こっか」


 廊下に出たとたん、樹くんはそう言って――。

 私の手を、取ったのだ。

 この前と同じように、ひんやりとした手のひらで、優しく握ってきたのだ。

 私は恐る恐るその手を握り返して、こくりと頷く。

 すると樹くんはどこか満足げに笑って、歩き出した。

 廊下を行きかう同級生たちが、時折私達を見て首を傾げている気がした。

 でも、あまりの嬉しさで胸がいっぱいだった私は、そんなことを気にする余裕なんてまるでなかったんだ。

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