君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 久しぶりにしては、まあまあうまく演奏出来た覚えがある。

 そんなことを樹くんが覚えていたことに驚いた。

 だって私は樹くんが何の楽器で何の曲を演奏したかなんて、まるで覚えていなかったから。

 そもそも、テストの時に彼がいたかすら覚えていない。

 だってその時はまだ、私と樹くんはほとんど喋ったことがなかったから、気にしていなかったんだ。

 ――なんで、その時はまったく関わっていなかった私のことを、樹くんは覚えているんだろう?


「よし、そんならリズム感はきっといいよね。だからこれ、やってみよ」

「太鼓……?」


 樹くんが勧めてきたのは、太鼓のゲームだった。

 今プレイしている人を見ると、流れてくる曲に合わせて、備え付けのバチで鼓面やフチを叩くゲームみたいだった。

 できるかなあって、プレイしている最中の人を思わず観察してしまう私。

 流れているのは、最近よくテレビでも流れている人気曲だったので、知っていた。

 頭の中で、曲に合わせて叩けるかを想像してみる。

 ――あれ、できそう……かも?


「うん、やってみる」


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