君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 音楽のテストで久しぶりにピアノを弾いた時よりもとっつきやすそうに思えたので、私はそう言った。


「よっしゃ。じゃあ、ふたりプレイね。かんたんモードでやろ」

「うん」


 かんたんモードってことは、きっと難易度は低めなんだろう。

 それならたぶんできる……よね?

 やっぱり足を引っ張ったら申し訳ない気持ちがあって、ちょっとまだ不安だった。

 だけど前の人のプレイが終わって、とうとう私たちの番になる。

 曲は好きなのが選べたので、樹くんは一曲一曲提示して「どれがいい?」って私に聞いてくれた。

 私は樹くんもきっと知っているだろう、去年一番ヒットした曲を選んだ。


「よし、じゃあ始まるよ」


 バチを持って樹くんが楽しげに言う。


「き、緊張するなあ……」

「あはは、いいんだってそんなに身構えなくて。別に失敗したって楽しきゃいいの」


 強張った顔になってしまった私に、樹くんが軽い感じで言う。

 ――あ、そうか。

 別にダメでもいいんだ。

 そう思わされた。

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