君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
「うん、ちょっと掃除が長引いちゃって」


 貸出カウンターの中から、琴子が笑顔で私に手を振りながらそう言った。

 琴子は小学生からの仲良しだ。

 私が腹を割って話せる、数少ない友達のひとりだった。

 そして学校内では唯一の。

 残念なことに、高校に入ってから琴子とは同じクラスにはなれなかった。

 彼女と一緒のクラスなら、教室でひたすら本を読むなんてこともなかったかもしれない。

 ――いや、ダメだよねそんなんじゃ。

 琴子に依存してるみたいで、そんなの迷惑だよ。

 そう考えると、逆に別のクラスでよかったかもしれない。


「あ! 教室の掃除してたの通りがかり見たよ。樹くんも一緒にいなかった?」

「……うん。同じ当番だった人がお休みしちゃって、手伝ってくれたんだ」


 樹くんは学年中の人気者だから、違うクラスの琴子も彼の存在は知っているらしい。


「マジ? 超優しいじゃん。やっぱりモテる男は違うねー。なんか仲良く話してなかった?」


 仲良くだなんてとんでもないと、私は大きく首を横に振る。


「ち、違うよ。あの人は誰にでもああみたいだよ」

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