君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 私は照れながら、由佳ちゃんに向かって言う。

 ボーリング場に向かう時に、由佳ちゃんに「友達になったんだから下の名前で呼び合おうよ~」と言われた。

 ――そっか。

 友達なのに、瀬尾さん、好本さん呼びは変だよね。

 私は納得したけれど、いきなりだったので時々「瀬尾さん」と読んでしまう。

 そのたびに瀬尾さんには「由佳だってば~」と訂正されてしまうのだった。


「じゃ、次は俺だね」


 樹くんが、私なら両手を使わないと持ち上げられないほどの重さのボールを軽々と片手で持ち、ピンに向かってとてもきれいなフォームで投げた。

 球は勢いよく、そして真っすぐにレーンを転がっていき、すべてのピンを散らす。


「す、すごい……」


 樹くん、運動神経もいいって知ってたけど、ボーリングもこんなに上手なんだ。

 かっこいいなあと、何食わぬ顔でベンチに戻ってくる樹くんに思わず見とれてしまう。


「あーあ。まったく憎たらしい。非のうちのどころのないイケメンめ」


 苦々しい表情で由佳ちゃんが樹くんに言った。

 だけど内容は誉め言葉でしかなくて、なんだか面白い。


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