君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
「あ、ごめん。話したくないなら、無理に言わなくていいから」


 口を閉ざした私に、気を遣うように樹くんは言う。

 樹くんは私のことを心配してくれている。

 そして、ひとりで教室の隅に居た私を、楽しい世界へと連れ出してくれた。

 由佳ちゃんっていう、新しい友達にも引き合わせてくれた。

 そんな優しくて私のことを考えてくれている人に、黙っておくのはなんだか申し訳ない気がした。

 ――だから。


「あのね。実は私、中学生の頃――」


 ゆっくりと、私が中学生の時に体験したことを樹くんに説明した。

 その頃の私は、今とは違って人と話すのが苦手ではなかったこと。

 友達付き合いも人並みにできていたこと。

 でも本を読むのは今と同じで大好きだったこと。

 そして私と同じで本を読むのが好きな男の子に、恋をしたこと。

 だけどその人に勇気を出してラブレターを書いたら、他の男子に見つかって教室の黒板に張り出されてしまったこと。

 その時に、意中の彼に「気持ち悪い」と言われてしまったこと。


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