小説「グレイなる一族」
しかし、由緒正しき誇り高き高貴な一族の生き物の末裔として、由緒正しくない誇り低き低俗な生き物の末裔である野良の為に何してやらなくてはならないのだ。

其の時、「グレイ広場」の窓を、「グランマ」が布団を干す為に開閉したのである。これで問題の一つはクリアーされたのであるが、次にどうやって野良の所に鰹節を濡れずに半分の量を届けられるのか?この問題について、「グレイ頭脳」をフル回転させる・・

鰹節は、ごく薄にスライスされた食べ物であり「グレイ広場」の窓から落とすとなると、その比重の軽さから四方八方に錯乱してしまう可能性が高い・・しかもまだ異世界の地面は風雨で乾いていない・・これではあんまりではないだろうか?

もっと、鰹節が硬く太く錯乱しない食べ物であるなら、お腹を空かせている野良の元に落としてやれるのだが、あっそう言えば、その昔「セバスチャン」が私の為に買って来てくれた・・

「焼き鰹節スティックバージョン」があるではないか?
(まだ食べた事がないというか・・・「セバスチャン」も「グランマ」も本人でさえもその存在を忘れていた。)

そうだ!!あれならばお腹を空かせている野良の元まで届けてやれる。しかし、私自身もまだ食した事のない「焼き鰹節スティックバージョン」野良の為とはいえ、プレゼントしてもいいものだろうか?「セバスチャン」が私という生き物との友好の為に、その食べ物を買ってきてくれて、尚かつ私に与える事を忘れてしまっている・・幻の一品だというのに・・私でさえもその存在があった事を忘れていた至高の一品・・「焼き鰹節スティックバージョン」・・

さすがに、私もその幻の一品を野良の為に差し出す事に考えれば考えるほど口惜しくて仕方なくてしょうがない・・第一に「グレイ広場」の窓は布団を干すために、全開に空けられており私が、「焼き鰹節スティックバージョン」を口に銜えその窓に飛び乗っても、いきなりの突風とかでバランスを崩し私自身が異世界に落ちてしまってはどうにもならないとも思うのだ。窓が全開に空けられている「グレイ広場」の窓から身を乗り出すことはそれだけで「ミッションインポシブル」の事のようで危険極まりない行為だとも考えられるのだ。

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