小説「グレイなる一族」
「バーアネモネ」に扉を開くと、今日の戦闘を共に闘った戦士達がお互いの帰還を祝してテーブル毎に乾杯の音頭をとっている。「エリーズ」と双子の姉妹である「プリン」が私たちを出迎えてくれた。「エリーズ」も「プリン」も丹精な顔立ちで「プリン」は皆に「プーちゃん」と呼ばれ親しまれている。「プーちゃん」は蚊さえも殺せないような実に女の子らしい性格でそれとは反対に「エリーズ」は小さく童顔な顔なのに言う事はどこか大人びていて勝気で活発的な少女だ。この二人の看板娘が日夜戦闘で疲れた戦士達の心を癒してくれていたのである。

ノリス「さーて今日も無事に帰還できた事に感謝!」

「ノリス」の音頭に合わせて、グラスを重ね一気に酒を飲み干した。自ら隣国を侵略する事のない「ガイア国」は、「バルト国」を中心とした連合に毎日のように攻められ、国の命運はもうあと僅かしかないと皆が分かっていた。今まで善戦できたのは先代アロン王の理念によって、諸国から自由に人々が「ガイア国」に移り住み・・その中に屈強の戦士達がいたからであるが、この不毛な「ガイア戦争」によって生まれ出てくる命よりも失う命が日に日に多くなるとあれば、いずれこの「ガイア国」は滅亡してしまうそんな陰をこの「バーアネモネ」に集う戦士達はおくびにも出さず明日は飲めないかも知れない酒を楽しんでいる。

「バーアネモネ」の隅に見慣れない若い男が打楽器を持って座っているのが見えた。

ノリス「エリーズ・・そこの壁に若い人は見慣れないが誰だい?」

エリーズ「今日バルト国から、この国にやって来た人だよ・・吟遊詩人でバーからバーを渡り歩いて、生計を立てているらしい。」

私と違い人見知りしない「ノリス」は、この見慣れない吟遊詩人に興味を持ち席を立ちその側まで歩み寄っていった・・

ノリス「君・・吟遊詩人なんだって、この戦争中にこちらがわにやってくるなんて物好きだな・・」

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