小説「グレイなる一族」
私はいつしか溢れ出てくる何かを抑えきれなくなり・・「バルト国」とは反対の方向に馬を走らせて云った。馬を走らせていると、国境の警備員達に静止するよう求められたがそ
れでも尚、私は走り続けた。いつしか走り続けると馬は山中に迷い込んだ。山中の森を
少し抜けると、広大な草原があり私はその草原の中に倒れこみ嗚咽ともいえない声にも
ならない叫びを挙げていた。

私は、この時点で「バルト国」の何人たりとも国王の許可なく国外に出る事を禁ずの法令
を破ってしまっている。何もこの法令は、「バルト国」のみあらず、近隣の諸国なら何処
も似たようなものなのだが、私はこの大地の上に行き場を失ってしまったのだ。

私は、いつしか草原の中で眠ってしまうと、行き場の無い戦士にも次の日の朝を訪れ
てきた、私は草原を少し下ると今は誰も住んでいないと思われる白い壁の廃墟を見つ
けた。

アラン「・・このぐらいの痛みなら何とか直せば風雨を凌げそうだ。」

その後、数日をかけて応急処置程度の処理を施し私はそこに住みついてしまった。幸い
、獣達も多く住んでいた為、食料に困る事はなかった。戦いこそが全て人を打ち倒して
初めてその存在が認められる生活から、必要最低限度の殺生しかしない生活に変わった時、初めてこの世界に流れている時間がこんなにも穏やかなものかと思えるのは不思議でならない。私はある日、小さなナイフで木を削り二つの仏像を彫った・・あまり出来は良くなかったが、いつしか人というものが本当に生まれ変われるのなら、この争いのない
家に生まれて欲しいと願いながら・・

そんな穏やかな日々がずっと続けばいいと思っていた。

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