隣は秘密の花先輩
Agapanthus
「花ー」
その声に釣られて振り返れば、私と同じように振り返る男子生徒がひとり。
渡り廊下から差し込む春の日差しが、彼の柔らかそうな頭をきらきらと照らす。
「花お前また下駄箱に手紙突っ込まれてたろぉ?」
大声で「花」と呼んだ男子生徒が、”花”先輩の肩に腕を回す。呼ばれたのはあっちの花だった。
「知らね。」
花先輩は、素っ気ない声で、肩に回された腕を鬱陶しそうに横目で流し見しつつ、引き剥がすのも面倒なようでそのまま踵を返して歩き出す。
「じゃあちょーだい。女の子の連絡先書いてあるお手紙」
ハイテンションなお隣さんにうんともスンとも返事をせず、ただ怠そうに歩く花先輩と、ふ、と目が合う。
長身で華奢な体躯。小さな顔に二重幅の広い黒目がちな瞳。高い鼻梁に、締まった唇。どこか掴みどころのない雰囲気はその美しさ故だろうか。
ゲラゲラと笑う男子の横で、花先輩の色素の薄い瞳が斜め下へ流れ、私へ向かう。