隣は秘密の花先輩
「どしたの?同じ名前の花先輩が気になるの?」
私は目で追っていた花先輩から視線を逸らし、明日菜に笑いかける。
「なんでもない!行こ!」
明日菜の手を取る。その時ふと、昨日の夜、私の手を掴んだもっと大きくて骨ばった手を、思い出してしまった。
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明日菜とカフェへ寄ってから帰宅すると、お母さんが保冷剤の入ったランチバッグを私に差し出す。
「これ、 夏奈汀くんのところに持って行って」
「はあい」
私は受け取るや否や制服のまま玄関へ逆戻りする。先程まで履いていたローファーの隣、クロックスに足を通し、家を出る。
小さな庭を抜けて、右へ向きそのまま大股で8歩。洋風な門のすぐ脇に『花』の表札。チラ、と見上げた先、2階の右部屋の明かりは点いている。彼はいる。