私があなたを殺してあげる
 すると数分経った頃に、「杏子さん、ですか?」と、一人の女性が私に話し掛けて来た。

「えっ!? ああ、はい・・・」

 私に話し掛けて来たのは、さっき智明と一緒にいた女性だった。年は私とそれほど変わらないくらいで、ショートカットの小柄で可愛らしい女性。


「店長さんに杏子さんが外にいるよと教えて頂いて、声を掛けさせてもらいました」

「河名さんに?」

 なんで河名さんが私のことをこの人に?

「私は、庄山あゆむと申します。智明とは以前、付き合ってました。もう五年も前の話ですが」


えっ・・・? 智明の元カノ・・・?


 私は驚きで目を見開いた。


「突然すいません。実は杏子さんに話しておきたいことがあって」

「私に、ですか?」

「はい」

 突然なんだろう、智明に近付くなとでも言いに来たのだろうか? もしそうなら私は聞き入れるしかないと思った。だって私は智明のように純粋ではない、本当はそばにいてはいけない人間だと、心のどこかで思っていたから。

 しかしあゆむさんは、私が考えていることとは全く違いうことを話してきた。


「杏子さんが、智明を支えてくれていたんですね?」

「えっ? いや、支えるって、私は何も・・・」

「いえ、きっと杏子さんのおかげです、最近の智明はよく笑顔を見せる。ちょっと前なら考えられないことです」

「そう、なんですか・・・?」

 私は何もしていない。けどもし、私がいることで笑顔になれているとするならうれしい。


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