私があなたを殺してあげる
 そんな状況の中では父親は高級車に乗って夜遊びをし、智明は家のために寝る間も惜しんで働いた。智明には、ほとんど娯楽の時間がなかったと。

 あゆむさんはその現実を目の当たりにして逃げてしまったとい言った。

 両親の反対もあったが、一番に自分が智明を、智明の家族を支えていく自信が持てなかったと。その環境で生きていく覚悟が持てなかったと。


 私はこの話を聞いてあゆみさんは責められないと思った。


 付き合っていく以上、いずれ結婚の話は出てくる。そうした時、この家の状況じゃとても嫁ごうとは思えない。あゆみさんにだって結婚の理想があって、幸せになる権利があるのだから。
不幸になるとわかっていて結婚はできない。私はそう思った。

 他にもいろいろ聞かされた、借金の保証人にならされたこと。嫌なことから逃げ、母親や智明に丸投げすること。母親が熱を出しても関係なく遊びに行くこと。まだまだ言い出せばきりがないと言っていた。


 もう十分だ。もう十分にこの父親は自分本位の悪だ。

「今の話を聞いても、智明を受け止めてくれますか? 愛してくれますか?」

 私はあゆむさんの問いに、すぐに言葉を返せなかった。


「ごめんなさい。逃げた私がこんな風に問い質すのはおかしいですよね? 本当にごめんなさい」

「いえ・・・」

 あゆみさんは、『できる限りでいいと、なるべくそばにいてあげてほしいと』言った。そして最後に『智明をよろしくお願いします』と頭を下げ、帰っていった。


 とても重い話を聞かされた。けど何故か、私にはそれが重いと感じなかった。きっと私自身にも辛い過去があり、きっと智明の気持ちに寄り添えると思ったからだ。

 私なんかでどこまで智明の支えになれるかわからないけど、私は智明を支えていく、必ず智明が笑顔でいられるようにしてみせる。そう誓った。




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