悪女は恋人たちを手放した。恋人たちはそれを許さなかった。
「綺麗ね」
「気に入ったか?」
「ええ。これがレオが言っていた魔術?」
興味深くレオの手の中にある薔薇を見つめているとレオは無表情ながらも嬉しそうに私を見つめてきた。
「あぁ、そうだ。エマにやるよ」
スッとレオにその美しい薔薇を渡され、私はそれを受け取る。
近くで見ればその美しさがますます伝わってくる。本当に美しい薔薇だ。
「本当に美しいわね。だけどこの薔薇は一体どこが特別なのかしら」
薔薇の観察を終えた後、私はにっこりと期待を込めて疑問に思ったことをレオに聞く。
レオがわざわざ私に魔術で作った薔薇だ。何か綺麗だけではない特別なことがあるのだろう。
「まずこの薔薇の色は世界中どこを探してもない特別な色だ。エマに似合うと思った紅を俺が魔術で作ってそれを薔薇に込めた」
「なるほど」
「そして何よりも特別なのはこの薔薇は一生枯れない」
「へぇ」
淡々とだけどどこか楽しげに話し続けるレオに私は笑顔で相槌を打ち続けた。
私のことを想って私の為だけに作られた一生枯れない薔薇。
恨むべき対象である私を想った魔術だなんて何といい響きなのだろうか。レオにとっては苦痛でしかないレオの愛の形なのだろうが、それでも私は嬉しかった。
レオはとても美しいがやはり魔術と向き合う時が1番輝いており、その姿が私は大好きだ。そして何より私の為に魔術を行使してくれる瞬間が一番好きだ。
彼の1番を私に捧げてくれるあの瞬間が。