悪女は恋人たちを手放した。恋人たちはそれを許さなかった。
6.恋人たちは望まない
リアムはそれを望まない
「入るよ、エマ」
「ええ、どうぞ」
部屋の外から予想通りリアムの声が聞こえたので私は緊張で声が震えないように精一杯自分を律してリアムに返事をした。
「どうしたんだい?エマ。面談だなんて。今度はそういう遊びかな?」
部屋に入るなり興味深そうに私に微笑みながらリアムがいつものように私の隣へ移動しようとする。
「リアム。今日は向かい側へ座りなさい」
だが私はにこりとも笑わずにそれを許さなかった。
笑えなかった、という表現の方が正しいかもしれないが。
彼と誠実に向き合う為にはいつものように隣ではなく机を挟んで向き合う形でなければならないだろう。
「どうしてそんな意地悪を言うんだい?僕はエマの側に居たいのに」
「…わからないのならもう一度言うわ。アナタは今日は向かい側に座りなさい」
おかしそうに笑ってそれでも私の横へ座ろうとリアムがこちらに近づいて来たので私はそんなリアムを睨んで強くそう言った。
昨日のこともあり、いつものように余裕を持ちながらリアムをあしらうことができない。
「…わかったよ、エマ」
そんな私を見てリアムは残念そうに肩を落とすと私に言われた通りに向かい側のソファに腰を下ろした。
恐ろしく美しい、甘いマスクをしたリアムが私を見つめる。
緊張でカラカラに喉が渇く。本当は逃げ出したい。
だが、逃げる訳にはいかない。
「リアム」
「何だい?エマ」
カラカラの喉から出た私の声にリアムがいつものように甘く微笑んで反応する。