天才脳外科医は新妻に激しい独占欲を放ちたい
 それはそうだけど、やってみてダメでしたが許されないのがこの仕事なのだ。


「そう、ですね」

「香月は真面目すぎるよ。もっと気楽にオペ室に入ればいいんだよ」

「気楽になんて!」


 大きな声が出てしまい、ハッと口を押さえる。

 適度にリラックスして臨むのは必要だけど、それは〝気楽〟とは違う。
 患者さんは命を預けてくれているのだから万全の態勢で挑むべきだ。


「すみません。とにかく、今はナースではありません。私が元ナースだということは内緒にしておいていただけませんか? 失礼します」


 草野さんは私を励まそうとしているだけかもしれない。

 けれども、毎日真剣に患者さんに対峙している陽貴さんを見ているので、〝気楽〟なんていう言葉を聞いて頭に血が上った。


「やっちゃった」


 病院から離れて冷静になると、あそこまでムキになる必要はなかったと思う。
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