天才脳外科医は新妻に激しい独占欲を放ちたい


 まさか、断ろうとしているの? 

 いや、親友のオペ――しかも有能な陽貴さんでも難しいというオペを冷静にできるかといえば、一筋縄ではいかないかもしれない。

 私的な感情が入ってしまうだろう。


「武士じゃねぇし」


 陽貴さんは笑ったものの弱々しかった。


「お前がいいんだよ。倉田になら俺の将来を預けられる」


 木藤先生は真摯な眼差しを陽貴さんに注ぐ。


「買いかぶりすぎだ。失敗しない保証はない」

「お前以外の医者に任せて失敗したら、絶対に後悔する。お前が全力を尽くした結果なら、たとえ失敗に終わっても俺は受け止めるよ」


 表情を曇らせた陽貴さんは、潔すぎる木藤先生に戸惑っているのかもしれない。

 外科医が視力を失ったらもうメスは握れない。
 いや、医者でいられるかどうかもわからない。

 それに、脳の手術は無尽に走る神経を傷つける可能性もある。
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