天才脳外科医は新妻に激しい独占欲を放ちたい
 少しドアを開けてのぞくと、長崎先生が顔を真っ赤にして取り乱す患者さんに突き飛ばされたので駆け込んだ。

 八十三歳になる男性の富岡(とみおか)さんはこれまで数度せん妄を起こしているが、入院環境を整えるなどの工夫で最近は落ち着いていたのに、異常なまでに興奮して意味のない言葉を叫んでいる。


「富岡さん、どうされました。怖くありませんよ」


 倒れた長崎先生は立ち上がったものの唖然としているだけなので、私が冷静に話しかける。

 興奮時は近づきすぎると暴力を振るわれる可能性があるので、少し離れたところから続けた。


「香月です。わかりますか? 看護師になったのでこれからよろしくお願いしますね」


 クラークとして何度か接した経験があるため、笑顔で話しながら点滴のラインが外れていないのを確認する。

 富岡さんは私を覚えていてくれたのか叫ぶのを止めた。
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