天才脳外科医は新妻に激しい独占欲を放ちたい
 おそらくさりげなく触れて発熱もチェックしているはずだ。


「痛いところはありますか?」
「ない」


 私が問いかけると、今度は答えてくれる。
 やはり聞こえにくいストレスがせん妄を誘発したのだろう。


「よかったです」
「SpO2は問題なし。富岡さん、もう大丈夫ですよ」


 陽貴さんはホッとした様子で表情を緩め、富岡さんにゆっくりした速度で話しかける。


「香月、よく気づいた。国枝と一緒にあと頼めるか」
「はい」
「長崎先生、ちょっといいですか」


 富岡さんが落ち着いたのを確認した陽貴さんは、長崎先生を促して出ていった。 



 その後の病棟は穏やかで、ナースステーションでカートの補充をしていると、長崎先生が顔を出した。


「香月さん、少し時間ちょうだい」
「はい」


 天野さんが心配そうに私に視線を送っていたが、私は彼女に続いてカンファレンスルームに向かう。

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