【完】セカンドマリッジライフ
食器を洗う水音が心地よく響いていく。 「そうか」とだけ言って淡々と家事を進めていく利久さんだけど、こうやって私が甘えたい時は静かに甘えさせてくれる。
不思議な気持ちでいっぱいだった。 誰かに子供みたいにこうやって甘えるのが初めてで。
今まで彼氏にだって家族にだってこうやって甘えた事はない。 いつだってしっかりしていなきゃって気を張っていた自分がいたんだ。
利久さんは言葉は多くはないけれど無言で私を甘えさせてくれる存在だった。 背中の温もりを感じたまま彼に話をかける。
「最近毎日がハッピーで幸せ。イチも何でもなかったし、家族は元気が一番」
「そうだな。確かに。 君が毎日楽しそうで何よりだ。ちなみにハッピーも幸せも同じ意味だ。繰り返し使うと馬鹿そうに聞こえる。」
「あは、利久さんは?幸せ?」
そう訊ねると同時に食器洗いが終わったようで、タオルで水滴を拭った利久さんがこちらを向いた。
少しだけ屈んで利久さんは私の頭を優しく撫でる。 優しい顔。眼鏡越しの瞳が優しく揺れている。
出会った頃から知っていたの。利久さんが本当はとっても優しくて暖かい人だって事。
そんなのお見通しだったんだからね。