俺様幼馴染は素直になれない!

その姿を見ていた隣に住んでいる瑠翔は気づいていた。

私がどこに行くのか不思議そうに見ていた。

私はそんなことなんて、これぽっちも感じなかったし、瑠翔が私に好意を持っているとは知りも知らなかった。

上杉くんとのデートに行くことだけを考えていた。

瑠翔のことは、私の頭の片隅に置いた。

瑠翔は、私のこと幼馴染以上ニセ彼女以下である。

そう思っているに違いない。

そんなことを考えながら私は無事待ち合わせ場所に到着した。

そこにはもう上杉くんの姿があった。

「お待たせ。待った?」

私は早足で目的地に着いて、上杉くんに言う。

上杉くんはラフな格好でシンプルかつ黒パンツで無地の緑色シャツを着ていた。

私に上杉くんは微笑んでいて、光り輝いて見えた。

「いや、大丈夫だよ。行こうか」

上杉くんは私の姿を見ると微笑んで、私の隣にきて、話しかけてくれた。

その姿さえ、眩しく見える。
いつも見る制服ではないからか、普段着の服装に目を奪われて、ドキドキが止まらない。

ううっ。上杉くん、顔がいい。

瑠翔で美形の顔は見慣れているはずだが、同級生で同じ教室だから普通の男子高校生と同じだと思っていたのかもしれない。

そして、草食系の顔を見慣れていないこともあるのかもしれない。

「う、うん」

私は返事だけした。

それは、緊張していたからだ。

男の子とデートなんてはじめてだから。

上杉くんは私の言葉に安堵しながら、私の右手を握った。

右手を握りしめて、私に上杉くんはウィンクをしてえへへと可愛く微笑んでいた。

たまに男らしさを出してくると、いつも見慣れない上杉くんがいる。

私は上杉くんのギャップに戸惑っていた。

そんなことを考えながら私は、上杉くんと隣合わせで歩く。

水族館は、地下鉄を2回乗り換えると、あっという間に1時間半ほど着く。

 地下鉄に乗ると、人が混みあっていた。

 人と人の距離が近くて、今にも誰かの背中にくっつきそうになるくらいだった。

 私はつり革を持ち、窓際の外を眺めていたら、いきなり急ブレーキがかかった。

 ギィー ギィー ギィー

 周りの人がドミノ倒しで崩れそうになりながらも、必死につり革や手すりを持っていた。

 私は人の多さに心の中でため息をしていた時に、ブレーキがかかったのでつり革を強く握っていたが、知らない人が後ろから私にぶつかってきて、私はその力でつり革を離してしまった。

 あっ……どうしようと思った矢先。

「…だ、大丈夫?」

 上杉くんは私の左隣にいて、左手で手すりを持って、右手で私のお腹付近を支えてくれていた。

 上杉くんに返事をしようと声を出そうとしたが、後ろにいた人が私に話しかけてきた。

 後ろにいた人は、すいません、大丈夫ですかと私に言ってきた。

 私は、大丈夫ですよと言い、後ろにいた人は申し訳ありませんと再度謝罪をして、最寄り行きで降りていた。

「……あ、うん」

 後ろにいた人と話した後、私は上杉くんを見た。
すると、顔面に上杉くんが目の前にいて、驚きながらも、私が倒れそうなのを助けてくれたのだ。

周りにいた人は、いいな、こんなイケメンに支えられるなんて…、素敵とヒソヒソと私たちを見ながら羨ましそうに見ていた。

 私は返事をしてから自分で立っていたが、上杉くんは右手でいきなり私の背中をグイっと押して、上杉くんの胸が私の顔とくっついていた。

「…あ、ごめん。またぶつかりそうになりそうだったから」

 上杉くんは私の顔を伺うように見てから、謝っていた。

「…いや、大丈夫。…あ、ありがとう」

 私は目を泳がせながらも、下を向いて上杉くんを見れなかった。
 そんな想いと裏腹に、上杉くんは私の顔を見て、言う。

「…結愛ちゃん。僕こんな顔しているけど…ちゃんとした男でしょ。だから、結愛ちゃんに何かあったらすぐ飛んでいくからね」

 上杉くんは私の背に合わせて屈んでから、真剣な目で男らしいセリフを私に伝えて、すぐにいつもの笑う上杉くんがいた。

 一瞬の出来事が私の胸を躍らせていた。

 草食系な顔して、男だしてくるのは反則の反則だよ~

 私はなにも考えていないふりをして、窓の外を見つめていた。

 それからしばらくして、最寄り駅を降りた。

 電子掲示板に書かれていた時刻表を確認すると、次は10分後に来る地下鉄に乗るために、反対の方向にある乗り場に上杉くんと向かっていた。

「…結構、人いるね。何か今日あるのかな」

 上杉くんは周りを見渡してから、私に話しかけてきた。

「そうだね。あ、サッカー試合とかじゃない?ほら」

 私はそう言って、周りに指をさして、上杉くんに言う。

「あ、ほんとうだ。ここのサッカーチーム今強いらしいからね」

 嬉しそうに周りを見渡して、隣にいた私を見て、上杉くんは弾ませる声をしていた。

「そうなんだ、知らなかった」

私は目を丸くして、上杉くんに声を発した。

「あ、あんまり、サッカー知らないか」

上杉くんは、あっ、やってしまったという顔をしていた。

「だけど…知りたいよ」

 私は上杉くんについて知らないことを知りたいと思った。

 だけど、それは人としてか恋愛感情かは今は分からないけど……

「……嬉しいな、じゃあ、もっと僕のこと話してもいい」

上杉くんは、子犬のようにはしゃいだ声で私に言ってきた。

「うん、いいよ」

 私はそんな姿を見て、口元を緩めた。

「それじゃあ、目的地の乗り場まで僕の話してもいい?」

「…いや、乗り場までじゃなくていいよ。普通に話して」

「…遠慮なく話すね。まずは、僕の恋バナするね」

「うん」

「…中学2年の頃、僕には初恋の人がいた。その人に近い人であろうと頑張って、アピールした。でも、その人は憧れでみんなが好きになる人。僕はただの相談相手だけじゃダメだと思った。意を決して、告白も振られて叶わなかった。それから、僕はその人がいない高校に入学した。もう好きな人は出来ないなぁって思った矢先、相波結愛という女の子に会った。その子は、いつも自信なさそうにしているけど、とにかく笑顔が素敵だった。自分の意見はあまり言わなそうだけど、あの時で確信した。あの時のこと覚えてる?」

 周りがザワザワする中、上杉くんは淡々と自分のことを話した。

「…え?」

 私はいきなりの上杉くんからの問いに目を丸くして、上杉くんを見た。

「あの時のこと、覚えてないか。僕、初めて話かけたのは確かに最近だけど、僕が教科書落とした時、拾ってくれたよね」

昔のことを思い出したかのように微笑んで、上杉くんは私に話しかけてきた。
 
「ああっ。あの時に。でも、それだけだよ」

 私は頭の記憶の中をくぐり抜けて、思い出した。

 確か……。

その日は数学の授業で、成績別に二つの教室に分かれるから、同じ成績くらいの智子と他の教室に行こうとした時に男の子の教科書を拾ったのだ。

「それだけのことが僕にとっては、気になる存在になった」

 上杉くんは口元を手に当て、クスッと笑っていた。

「え?」

 私は返答をすると、目的地の乗り場に着いた。

「着いたからこの後の続きは、水族館で」

 今聞きたいという言葉を、好きなものを後回しするように上杉くんは優しい瞳で私を見つめて言ってきた。

 それから、私たちは地下鉄に乗り込んだ。

 地下鉄に乗り込むと、先ほどよりも人が少なく、席に座れた。

 私たちは窓際の端っこに座って、扉が閉まります~ご注意くださいとアナウンスが流れて扉が閉まった。

 人が少ないこともあり、私は上杉くんに話しかけた。

「さっきの話って…」

「…それは水族館で」

「いや、さっきのこと聞きたいから」

 私は前のめりになって、座っていた上杉くんに聞いた。

「…分かったよ。今言うから。教科書拾った時、結愛ちゃん何言ったか覚えてる?」

 上杉くんはあっけに取られて、素直に返事をして声を発した。

「覚えてない」

「…だよね。ほんとに何気ないことだったから。そう。あの時…」
 
 上杉くんは回想をして、私に微笑んで話した。

         *

上杉くんが教科書を落とした時のこと。

「おい、上杉。宿題したか」

 僕はその時だけ何故か宿題を忘れてきていた時に友達に聞かれた。

「あーしてないね」

 その時は僕の中でいろんなことがあって、気持ちの整理ができなく何かにムカついて、適当な返事をした。

「今からするから。上杉もやろうぜ」

「おう」

友達に応答して、教科書を開いた瞬間、教科書が床に落ちた。

「なにしてんだよ。今からやらないと間に合わないんだから。あ、ありがとう」

友達は拾ってくれた人にお礼を言っていたので、僕も言おうと声を発した。

「あ、ありがとう」

 僕は拾ってくれた人に目を合わせて、返事をした。

「いえ、今回、結構、宿題難しいみたいだからここの部分使うといいよ」

 拾ってくれた人にそこまで教えてくれるなんて、なんて優しい人なんだと思いながら、拾ってくれた人の顔を見た。

「そうなんだね。教えてくれてありがとう」

拾ってくれた人に再度お礼を言うと、一瞬だが笑って答えてくれた。

「いえ、頑張ろうね」

 拾ってくれた人の一瞬の微笑みに僕は心を奪われた。

「あの子、名前なんていうんだ」

僕は前に向いて、その子の後ろ姿を見ながら、友達に聞いた。

 同じクラスの子というのは顔だけ認識はあり、いつもイケメン幼馴染といるので、目立ってはいたがどんな子か名前さえ知らなかった。

 いつもの僕なら覚えているのに…

「あー大人しい子ね。あの子は相波結愛だよ。同じクラスだし、上杉ならクラス全員のことは覚えてると思ったけどね」

 友達は興味なさそうに言っていたが、僕はその子のことがもっと知りたくなった。

 最初はただの興味だったかもしれないが、徐々に彼女を観察して好きになっていたのだと思う。

                *

「…あれだけで、なんで私を」

私は上杉くんを見て、目を丸くして声を発した。

「ほんとにね。僕にも分からない。けど、ただ結愛ちゃんに救われた」

 上杉くんは優しく微笑んで、私に言う。

「…そんな私は…」

 私は下を向いて、謙遜した。

 こんな自分を好きになってくれるなんて…思いも知らなかった。

 今まで片思いしかしてこなかったから。

「うん、結愛ちゃんにとってはそうだね。でも、僕は結愛ちゃんの些細な言動がひかれていたんだ。どうしようもないくらいに」

 上杉くんは真っ直ぐに窓を見つめて、恥ずかしそうにして言っていた。

「……うん」

 私は頷くことしか出来なかった。

「…それは僕の想いだから。結愛ちゃんは結愛ちゃんの考えがあるから。でも、瑠翔先輩には負けないつもりだから、あ、着いたみたい。行こうか」

「………うん」

私は返事をして、最寄り駅を降りた。

私たちは降りて、駅の向こう側にある水族館に向かった。

やはり土曜日ということもあり、カップル連れや家族など沢山の人がいた。

地下鉄の人の多さよりも人が多く、参りそうになった。

「人、多いね」

 上杉くんは一言呟いて、声を発した。

「…だね」

 私は頷いて、言葉を発する。

「人は多いけど、まぁ気にしないで行きますか」

 上杉くんは周りを見渡したあと、私に子供のように笑っていた。

 その姿に思わず微笑んだ。

それから、水族館のチケットを買って、受付からゲートに入った。

「うわぁ、きれい」

 私は水族館の水槽を近づけて、泳ぐ魚たちを見た。

「そうだね。あ、ほらこの魚みて、珍しいみたい」

 上杉くんは私の隣に近づいて来て、水槽にいる魚たちを私と同じように見つめていた。

「…魚って不思議だよね。ずっと泳ぎ続けている。それは意味のあることなんだよね」

 水槽の中を見続けたまま上杉くんは私に問いかける。

「なんで、そう思うの」

私は疑問に思ったことを聞いた。

「イワシやマグロとか魚って泳ぎ続けないと死んじゃうんだって。泳いで酸素を取り入れている。だけど、僕は思うんだ。止まりたいって思うんだよね。止まることも必要だと思うんだよ。泳ぎ続けて息抜きなんて出来てるのかな」

 上杉くんは水槽にいる魚たちの泳ぐ姿を見て、私に語り始めた。

「出来てるんじゃないかな。泳ぎ続けていても魚たちはなにかしらで息抜きしてると思うよ。例えば、恋をしたり、好きなことやったりとか」

 私は上杉くんの返答をして、あまり話すことができない私がスムーズに言葉を並べて言う。

「…恋をしたり、好きなことしたりか。そうだね、動物でもそういうのあるよね。結愛ちゃんは?」

 上杉くんは水槽の中の魚を見てから私を向いて、聞いてきた。

「あるよ。好きなこと。観葉植物」

 私はまた水槽の中の魚を見てから、答えた。

「そうなんだ。なんの観葉植物?」

 上杉くんはへぇーと珍しそうな表情を浮かべて、私に声を発した。

「カポック。育てやすいし、可愛いよ。見るだけで癒される」

「へぇ、そうなんだ。僕も買ってみようかな」

 上杉くんはそう言って、携帯を握りしめて、観葉植物と検索し始めた。

「うん、買ってみて」

 私はそう言うと、上杉くんは嬉しそうにしていた。

「結愛ちゃんのこと一つ知れて、よかった」

 上杉くんは私を見て微笑んで、自分のことのように嬉しそうだった。


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