Lの色彩
最初は眼科へ行った。次は脳外科へ。神経科へ。心療内科へ。
異常はなさそうですが、と申し訳なさそうに言う医師たちの姿をまだはっきりと覚えている。
自分は病気かどうかもわからないのかと、平然を装いながら不安に押しつぶされそうになった。
母に背中を撫でられながら泣き出しそうな気持ちで帰ろうとしたとき心療内科の医師が言った。
「総合病院に、紹介状を書きますから。ただし君は中を見ないように」
大通り沿いの総合病院はここらでは一番大きな規模の病院で、私立大学の医学部とくっついていた。自分がここで世話になったのは三歳のときの水疱瘡以来だった。
「高橋さん、高橋色人さん、八階の南棟のほうへどうぞ」
三階から上は診察室ではなく入院病棟じゃなかったか、と思いながら足を運ぶ。母も不安そうな顔をしていたが、自分の肩をずっと抱いてくれていた。
八階にひっそりとある待合室では、健常者にしか見えない何人かの若い男女が思い思いにソファに腰かけていた。
今思えば、彼らも奇病科の患者なのだがその時の色人は面倒でたらいまわしにされたんじゃないかと勘繰ったものだ。