Lの色彩
奇病科にくる患者の症状は様々だ。風邪や骨折のような特定の治療法は存在しないし、同じような症状の人間を探すほうが難しいとも言っていた。
例えば、涙と血液が逆転している人や、触れたものを腐らせてしまう人、嘔吐をすると炎を吐くだとか、他人の感情を感知する度に眼孔から花を咲かす人もいれば、同じく花を咲かすけれどそのたびに記憶を失っていく人もいた。
重症患者で隔離施設に入院している人の中には体が食用に変化していく、という症状の人もいるという。
そう考えたら自分は見えないだけで、まだマシなんじゃないかと思えた。
高校生になったときから一人で通院をしている。
私生活に支障がないので親にはなんともないとしか伝えられないし、問診のたびに付き合わせるのは母親の精神衛生上よくないと思っていた。
大学で自分の症状を知っていた奴はいない。
それはサークルのやつらも学科の友人であっても同じだった。
いったところでなにも変わらないし、ただ見えないだけなのに言われたって向こうだって戸惑うだけに違いないし、できることなんてなにもないのに。
今だってそうだ。会社には伝えていない。
「じゃあ今回の薬はこっちにしておきますね、一日多くても五回までを目安にしてください。飲みすぎると良くないですから」
「いつもすみません。先生は、その後どうなんですか」
「僕もいつも通りです。この間なんか背中から生えちゃってちょっと大変でした」
朗らかに笑って言うが、瀬戸口も奇病に罹患している一人だった。彼は体から何かしらの植物が生えるという症状を患っている。
今回は楡、その前は蜜柑、その前は石楠花と言っていたか。場所に法則はないそうだ。
自分がそうだから人を診れたほうがいいと思って、といつだか言っていたのを思い出した。
花形、エースなんてもてはやされても結局病気から逃げているだけの自分はなんなんだと心臓が痛くなる。
「では来月は十五日ですね、時間はいつも通り?」
「ええ、お願いします」
「あまり思いつめないようにね」
「……そうですね」
失礼します、と部屋を出る。入れ替わるように先ほどの男の子が呼ばれているのが聞こえた。